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東京家庭裁判所 昭和45年(家)10531号 審判

申立人 松本征子(仮名)

相手方 沢本かね(仮名) 外六名

主文

1  (イ) 別紙遺産目録1(4)(7)の物件及び同3の電話加入権は相手方佐伯かねの取得とする。

(ロ) 同目録1(5)(9)の物件は申立人松本征子の取得とする。

(ハ) 同目録1(3)(6)(10)(11)の物件は相手方吉田照子の取得とする。

(ニ) 同目録1(8)(13)の物件は相手方佐伯昭二の取得とする。

2  別紙目録1(1)の物件は既になされた一部遺産分割協議により、同1(12)の物件は亡佐伯惣之助に対する生前贈与により、相手方佐伯あや子、同春雄、同夏雄、同秋雄の共同相続に基づく共有(持分あや子9分の3、その余の者各9分の2宛)となつている。

3  別紙目録1(2)の物件は既になされた一部遺産分割協議により相手方昭二の取得となつている。

理由

1  (申立)被相続人佐伯満之助は昭和三五年三月一八日死亡し遺産相続が開始した。右遺産は別紙遺産目録記載のとおりであり、相手方かねは妻、申立人、相手方照子、同昭二は子である相続人であり、その余の相手方は亡(昭和四三年七月二三日)惣之助(長男)の妻と子(代襲相続)として本件相続人である。(相続分はかね五四分の一八、征子、照子、昭二各五四分の九、あや子五四分の三、春雄、夏雄、秋雄各五四分の二)

よつて申立人は右遺産分割の審判を申立てる。

2  (関係人の主張)

(1)  (申立人・相手方かね・同照子・同昭二)

遺産目録の物件が遺産であることは争わない。

右物件について分割協議したことはなく、登記簿上亡惣之助及び昭二のため相続登記がある分も単に税金対策のためにそのような登記をしただけのもので、右登記名義人のため権利移転があつたものではない。

(2)  (相手方あや子・同秋雄)

目録1(12)の建物は惣之助の財産であつた電話加入権・預金を除きその余の不動産はすべて分割済である。

(3)  (相手方春雄・同夏雄)

遺産のうち亡惣之助・相手方昭二のため相続登記を経由した分は一部分割済であつてその余のものが未分割であるのに止まる。

(4)  (関係人全員)

電話加入権の評価額は金四万円である。

3  (判断)

(1)  本件は別紙遺産目録の物件は被相続人佐伯満之助の遺産であることを前提として遺産分割を求める旨の申立である。ところで目録中電話加入権が未分割の遺産であることは争いがない。目録中1の(1)ないし(11)(13)の土地建物が遺産であつたことも関係人に争がない。しかし一部の関係人は右遺産がすべて未分割であつて亡惣之助及び昭二のため相続登記のあるものも実体に副わないものにすぎないと主張するが、他の一部の関係人は亡惣之助及び昭二のため相続登記のある分は既に一部分割済である、と主張し、残余の共同相続登記のある分についてその相続分のとおり分割を求めるのである。

(2)  そこで記録を調べてみると、次の如くである。目録の1の不動産のうち(1)については昭和三六年一〇月一一日所轄法務局出張所受付を以て相続人(亡)佐伯惣之助のため相続による所有権移転登記が、(2)についても前同日同出張所受付を以て相続人たる相手方佐伯昭二のため相続による所有権移転登記が、(12)については同四〇年七月二七日同出張所受付を以て相続人(亡)佐伯惣之助のため所有権保存登記が、(3)ないし(11)及び(13)については同四〇年七月二七日同出張所受付を以て相続人たる佐伯かね(相手方)(持分六分の二)、(亡)佐伯惣之助(持分六分の一)松本征子(申立人)(持分六分の一)、吉田照子(相手方)(持分六分の一)、佐伯昭二(相手方)(持分六分の一)のため相続による所有権移転登記(未登記建物については所有権保存登記)がなされている。そして満之助の遺産の一部であつた右(1)(2)の各土地については申立人及び相手方かね、同照子、同昭二のほか佐伯惣之助等相続人全員の間で昭和三六年九月二四日一部分割協議が成立し、これに基づいて前記所有権移転登記を経由したものと認められる(登記簿謄本と三六・九・二四付証と題する分割協議書、登記関係書類の写し)。本件関係人のうちには右は税金対策の仮装行為で未分割であると主張する者もあるが、これを認めるに足りる証拠は発見できないから右主張は採用できない。次に目録1(12)の建物は被相続人満之助が昭和二七年頃建築所有した未登記のものであつたが、その後、時期は不詳であるけれども満之助から惣之助に対し生前贈与されていたものであつたから、本件相続開始後ではあるが、昭和四〇年七月二七日惣之助のため所有権保存登記を経由したものであつた(この事実は登記簿謄本、申立人及び相手方あや子の審問により認められる)。

その余の土地建物については前掲のとおり共同相続登記がなされていることが記録にある各登記簿謄本により認められる。しかし右はこれらの遺産たる不動産につき特段の分割協議がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、未分割のまま単に共同相続登記を経由したものにすぎず各相続人の具体的相続分はこれにいわゆる特別受益分を加へ、既に一部分割済の部分を勘案して、分割手続を行い、確定すべきものである。(従つて上記未分割の不動産については登記簿上の単なる共同相続登記に表示された持分に応じて当該不動産を分割すべき限りではない。)

(3)  遺産目録のうちに預金の項目がある。しかし遺産として預金があつたことを認めるに足りる証拠がないからこれは分割する対象とならない。

(4)  遺産目録のうち電話加入権一本があること、その価額が金四万円であることは関係人全員に争いがない。

(5)  そうすると結局目録1(3)ないし(11)(13)の土地建物と同3の電話加入権を各相続人に分割すべきもので、同1(1)(2)は一部分割済、同1(12)は生前贈与されたものであるから、これらを検討のうえ以下の判断を進める。

(6)  不動産の評価について、厳密には価額を鑑定させてそれによるのが理想であるが、本件においては専門家の鑑定人に鑑定評価させるときはそのために莫大な費用を要することが、予想され、本件関係人はそのような費用負担を望んでいない。そして本件は不動産取引を目的とするものではなく、単に相続人間の均衡を図つてその分割をすることが窮極の目的であるから、各物件の課税台帳の評価額によつても妨げないものと認め、これによることとする。

記録中の昭和四八年の固定資産税課税台帳(写)によれば前記(1)ないし(13)の土地・建物の価格は次の如くである。

(1) 一億九八〇五万七二一〇円

(2)   九七四二万四九一〇円

(3)   五六三七万一四八〇円

(4) 一億三一〇七万六〇七〇円

(5)   九三〇五万四九二〇円

(6)   二八五九万一二〇〇円

(7)   六九四九万〇五〇〇円

(8)   一六八二万一〇〇〇円

(9)   一五二四万九五〇〇円

(10)   一九六一万〇五〇〇円

(11)      二万三六〇〇円

(12)     八四万七七〇〇円

(13)      八万七四〇〇円

目録3の電話加入権四万円前掲価額を合算した金七億二六七四万五九九〇円が本件みなし相続財産の価額となる。これに各相続人の法定相続分を乗じると

かね  二億四二二四万八六六二円・・・(イ)

征子  一億二一一二万四三三一円・・・(ロ)

照子  一億二一一二万四三三一円・・・(ハ)

昭二  一億二一一二万四三三一円・・・(ニ)

(亡)惣之助 一億二一一二万四三三一円・・・(ホ)

ところが亡惣之助は生前贈与として目録1(12)の建物を取得し、同1(1)の土地を一部分割により所有権取得をして居りその価額は一億九八〇五万七二一〇円と八四万七七〇〇円を合算した一億九八九〇万四九一〇円となり前掲(ホ)の額を超えているから、個人の相続人であるあや子、春雄、夏雄、秋雄の新たな取得分はない。

賢二は目録1(2)の土地を前記一部分割により所有権取得しているから、前掲(ニ)の額からこれを差引くと新たな分割により取得しうべき相続分は二三六九万九四二一円となる。

そうすると以上を要約すれば本件分割により取得すべき相続分は

かね 二億四二二四万八六六二円

征子 一億二一一二万四三三一円

照子 一億二一一二万四三三一円

昭二   二三六九万九四二一円

の割合となる。

本件未分割の遺産とこれを分割すべきかね、征子、照子、昭二の右相続分の割合とを対比検討するときは、各物件の位置、形状、使用状況その他一切の事情を斟酌して次のとおり右各相続人に分割するのが相当である。

目録1(4)(7)の不動産及び目録3の電話加入権をかねの取得とする。

同1(5)(9)の不動産を征子の取得とする。

同1(3)(6)(10)(11)の不動産を照子の取得とする。

同1(8)(13)の不動産を昭二の取得とする。

厳密に各物件の評価額を対比するとき上掲相続人四名の間で多少の不均衡を生ずる憾みなしとしないが、上掲評価額自体数学的又は論理的厳密さを以つて算出されたものでないのみならず、遺産分割は一切の事情を斟酌してなしうべきものであることに鑑み、本件においては調整金ないし、清算金を課することが相当とは考へられないから特にその支払いを命じない。

(7) 前述のとおりあや子、春雄、夏雄、秋雄の新たな取得分はない。目録1(1)(12)の土地及び建物は惣之助の既に取得していたところで、同人の死亡によりその相続人としてあや子は九分の三、その余の者は各九分の二の割合により共同相続しているところであるが、本件においてはその遺産分割の申立があるものとは解せられないから、その分割について特段の審判はしない。

4  よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 長利正己)

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